
中央アジアをひとことで表すなら、「多言語の交差点」と言っても過言じゃありません。古くから遊牧民や商人、帝国の支配者たちが行き交ったこの地では、さまざまな言語が入り混じりながら使われてきました。
中央アジアで最大の語族は「テュルク語族」で、広く地域全体に分布しているのですが、それだけでは語り尽くせないのが中央アジアの面白さ。他にもインド・イラン系の言語や少数民族の言語、そして旧ソ連時代から続くロシア語の影響など、言語地図はとっても多層的なんです。
まず押さえておきたいのが、中央アジアの大多数を占めるのがテュルク語族だという点。これは、もともとアルタイ山脈周辺を起源とする遊牧民系の言語グループです。
中央アジア5カ国のうち、カザフスタン・キルギス・ウズベキスタン・トルクメニスタンの国語はいずれもテュルク語族に属しています。語彙や文法は共通点が多く、相互理解もしやすいとされています。
これらの言語は、時代によってアラビア文字→キリル文字→ラテン文字と文字体系が変化してきました。近年ではトルコとの文化的なつながりを強める動きもあり、ウズベキスタンやカザフスタンではラテン文字化が進められています。
中央アジアの中でちょっと異彩を放っているのがタジキスタン。ここではタジク語が公用語とされており、これはテュルク語ではなく、インド・ヨーロッパ語族のイラン語派に属しています。
実はタジク語は、イランやアフガニスタンで使われるペルシャ語(ファールシー)とほとんど同じ。タジク語の話者は文学やニュースなどでペルシャ語も問題なく理解できるほど似ています。
しかし、ソ連時代の影響でタジク語はキリル文字を使用しており、文字だけはイランやアフガニスタンのペルシャ語話者とは異なるんですね。
もう一つ忘れてはいけないのがロシア語の存在。中央アジアの言語状況を語るうえで、この旧宗主国の言語は今でも大きな影響力を持っています。
ソ連時代に徹底的に普及したロシア語は、今でも都市部やエリート層での共通語として使われています。ニュース、大学教育、IT業界などでは今もロシア語が主流というケースも少なくありません。
ロシア語の存在感は国によって異なります。カザフスタンではロシア語が準公用語として認められている一方で、ウズベキスタンやトルクメニスタンでは徐々に使用が制限されつつあります。
中央アジアには、大きな語族の他にも多様な少数民族言語が共存しています。これがまた、この地域の文化の奥深さを物語っているんです。
たとえばキルギスやカザフスタンには中国系のドンガン族やウイグル族が暮らしていて、それぞれ漢字文化圏のルーツを持つ独自の言語を使用しています。
さらにタジキスタン東部の山岳地帯では、「パミール諸語」と呼ばれるイラン語派の古語が細々と使われ続けており、言語学的にも非常に貴重な地域とされています。
中央アジアでは、言語が民族意識の核となっていることが多く、言語政策は単なる文化の問題ではなく、政治やナショナリズムとも深く結びついているんです。
中央アジアの言語分布を見ていくと、この地域が「東西の文化が交わる交差点」であり続けてきたことが、言葉の重なり方にもあらわれていると感じます。最大語族は確かにテュルク語族ですが、それだけで片づけられない、豊かで繊細な言語のモザイクが広がっているんです。