


マレーシアのアブラヤシ農園
規則的に植栽された樹列が、商業農業のスケール感を伝えている。
出典:『Oil Palm Plantations in Melaka』-Photo by Chongkian/Wikimedia Commons CC BY-SA 4.0
東南アジアの風景といえば、まず目に浮かぶのが、どこまでも続く水田。
それから、ヤシの木がゆらゆら揺れるプランテーション──このあたりですよね。
でも東南アジアの農業って、「稲作が多いよね」で終わるほど単純じゃないんです。
実はここ、土地も気候も国の成り立ちもバラバラで、その分だけ農業の形もガラッと変わります。
東南アジアの農業は、「気候」「地形」「歴史的背景」の三拍子が合わさって生まれた、超・多様な営み。
雨季と乾季のリズム、山がちの地形、川がつくるデルタ地帯。
さらに、植民地時代に広がった商品作物の栽培など、背景まで含めて見ると「なるほど!」が増えていきます。
国ごとに、育てられている作物も個性派ぞろい。
そしてその作物が、食文化や暮らし、さらには輸出産業にも直結しているんですね。
今回は、東南アジアでどんな作物がどこで育てられているのか。
さらに、なぜそうなっているのかまで、ひとつずつ丁寧に掘り下げていきますよ!
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東南アジアのケッペン気候区分(1991-2020)
赤道付近のAf/Amが卓越し、内陸や高地でAwやC系が現れる。
季節風と山地地形が地域差をつくる。
出典:『Koppen-Geiger Map v2 Southeastern Asia 1991-2020』-Photo by Beck et al./Wikimedia Commons CC BY 4.0
まず押さえておきたいのが、東南アジアの農業を根っこから支えている気候と地形の話です。
この地域の多くは熱帯モンスーン気候、もしくは熱帯雨林気候に属していて、とにかく雨が豊富。
高温多湿で、作物がよく育つ。
しかも地域によっては、年に2回、3回と作付けできる場所もあるんです。
東南アジアの農業は、「暑さ」と「雨」を味方につけて成立している。
日本のように「一年一作」が基本、という感覚とは、ちょっと違う世界ですね。
東南アジアの雨季に降る大量の雨は、ただの自然現象ではありません。
実はこれ、農業にとっては灌漑用水という超・重要な資源なんです。
特にメコン川流域やチャオプラヤ川の平野部では、川と雨をうまく組み合わせた水田農業が、かなり古くから発達してきました。
モンスーンのリズムを読み、水を制することが、安定した稲作につながった。
自然まかせに見えて、実は人の知恵がぎっしり詰まっているんですね。
東南アジアは、平らな土地ばかりではありません。
山がちな地域では、斜面を活かした棚田が広がっています。
たとえばフィリピンのコルディレラ地方や、ベトナム北部。
急な斜面に段々と田んぼを作り、水を巡らせながら稲を育てる──見た目も圧巻です。
一方で、インドネシアのジャワ島のように、火山性で肥沃な土壌に恵まれた地域もあります。
こうした場所では、稲作だけでなく、野菜や果樹の栽培も盛ん。
地形の違いが、そのまま農業の個性になる。
同じ東南アジアでも、作物の顔ぶれがガラッと変わる理由は、ここにあるんです。
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東南アジアの稲作地帯(メコンデルタ)の衛星写真
ベトナム南部のメコンデルタに広がる灌漑水田の区画が見える。
米は東南アジアの主要農作物の柱で、デルタ地帯が生産を支える。
出典:『Rice fields, Mekong Delta ESA25022055』-Photo by European Space Agency/Wikimedia Commons CC BY-SA 3.0 IGO
では実際に、どの国でどんな作物が多く育てられているのでしょうか。
ここからは、代表的な国ごとに、農業の特徴を見ていきましょう。
タイの農業と聞いて、まず思い浮かぶのがコメです。
なかでも、ジャスミンライスと呼ばれる香り米は世界的に有名ですね。
栽培の中心は、チャオプラヤ川流域の広くて肥沃な平野。
水と土に恵まれたこの地域が、タイの稲作を支えています。
コメ以外では、サトウキビやキャッサバの栽培も盛んで、砂糖やデンプン原料として重要な役割を果たしています。
ベトナム南部に広がるメコンデルタは、東南アジアでも最大級の稲作地帯。
タイと並ぶコメ輸出国として知られています。
雨季と乾季をうまく使い分けることで、二期作・三期作が可能なのも大きな強み。
まさに、水とともに生きる農業です。
また、稲作だけでなく、中部高原を中心にコーヒーやコショウといった商品作物の生産も拡大しています。
インドネシアは数多くの島からなる国。
そのため、農業のスタイルも地域ごとにかなり違います。
人口の多いジャワ島では、米を中心に、野菜や果樹の栽培が盛ん。
一方で、スマトラ島やカリマンタン島では、アブラヤシやゴムのプランテーションが広がっています。
同じ国でも、島が違えば育つ作物も農業の姿も変わる。
この多様さこそ、インドネシア農業の大きな特徴です。
フィリピンでも主食はコメ。
ですが実は、バナナやパイナップルといった果物の輸出国としての顔も持っています。
ミンダナオ島などでは、海外のグローバル企業が大規模な農園を展開。
南国の気候を活かした果樹栽培が、経済を支える柱のひとつになっています。
この地域では、近代化が進みつつあるとはいえ、今も伝統的な水稲農業が生活の中心。
農村の風景は、昔ながらの稲作と強く結びついています。
最近では、周辺国からの投資を受けて、ゴムやカシューナッツなどの商品作物の栽培も増加中。
伝統と変化が、同時に進んでいる段階といえるでしょう。
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暴風雨で水没したフィリピンの水田
豪雨で水田が長時間冠水すると、収穫前の稲が傷み、収量と品質が落ちやすい。
排水・復旧の遅れが、次作の作付けにも影響する。
出典:『Rice fields submerged in flooding in Naga, Camarines Sur』-Photo by Naga City Government/Wikimedia Commons Public domain
東南アジアの農業は、今もなお労働集約型で、小規模な農家が中心という国が少なくありません。
人の手に頼る場面が多く、家族経営が基本──そんな風景、まだまだ各地で見られます。
とはいえ、ずっと昔のままというわけでもありません。
近年は、機械化やIT技術の導入が少しずつ進み、農業の姿も静かに変わり始めています。
ここ数年で、農業に影を落としているのが気候変動の影響。
雨季の到来が読みにくくなったり、洪水や干ばつが立て続けに起きたりと、不安定さが増しています。
「いつ雨が降るか分からない」こと自体が、農業の大きなリスクになりつつある。
こうした状況に対応するため、灌漑設備の整備や、気象データを活用した予測技術が重要視されています。
自然任せから、少しずつ“備える農業”へ──そんな転換期に差しかかっています。
プランテーション農業では、長年にわたる農薬や化学肥料の多用によって、土壌の劣化が問題になってきました。
短期的な収穫を優先した結果、土地が疲れてしまうケースも少なくありません。
「今だけ」ではなく、「この先も続くか」が問われる段階に来ている。
そのため最近では、有機農業やアグロフォレストリー(森林農業)といった、環境への負荷を抑える手法にも注目が集まっています。
自然と対立するのではなく、共存する方向へ──そんな考え方です。
もうひとつの大きな課題が、人の問題。
都市への人口流出が続き、農業に関わる若者の数は年々減少しています。
担い手がいなければ、どんな農業も続かない。
そこで求められているのが、農業の魅力を伝え直すこと。
収益性を高めたり、新しい技術を取り入れたりすることで、「やってみたい仕事」に変えていく工夫が、これからますます重要になっていきそうです。
東南アジアの農業は、自然条件を活かした稲作と商品作物のバランスが特徴です。地域ごとの多様性と課題を理解することで、未来の食や環境の在り方も見えてくるかもしれませんね。私たちの食卓に届く「おコメ一粒」からでも、こうした背景をちょっと想像してみると、世界がグッと身近に感じられるはずです。
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